喫茶店で休憩することについて、等々
2010/10/31/Sun
「休憩することに関して私の右に出るものはなかなかないんじゃないかな、と勝手に思ってる。意味不明。というか、twitterがなんだか休憩しているサインを出すツールになっちゃってるのが私のツイートのわけわからないところだけど、いずれにせよ、自分のツイートを見てみると、あ、私はもしかしたらドトールが好きなのかな、と気づく。べつにこれはさして意識してのことではないと思うけど、ドトールに出没する割合が私は高い。なんで? と、考えると、いつも通る道なりに都合よくドトールがあるからかと思う。その理由で以前はぜんぜん行かなかったモスにも時折寄る。行動範囲からずれたマックにはあまり足を運ばなくなった。スタバには一年ほど前はよく通っていたけど、さいきんはあまり行ってない。スタバのコーヒーは量が多くて飲みづらい。タリーズには一度も入ったことがない。なんで? なぜだろう。」
「生活に対し、保守的‥というのかしらね。なかなか新しい店に顔を出すのが億劫という奴かしら。」
「それはあるかも。というのも、私って基本的に同じメニューばかり頼む。ドトールに行っても、ほぼまちがいなく、ブレンドしか注文しない。そんなのつまらないでないかーっていわれるかもしれないけど、べつにいいの、私はこういう生活の細部に関しては保守的なの、一度気に入ったら何かまずいことがない限りそれで通すの、だって問題ないもん。‥この傾向は、でも、いろいろ私の生活の端々に潜んでいる。たとえば、以前住んでた家の近くにラーメン屋があったんだけど、私はそこでみそラーメンばかり食べていた。なぜかっていうと、そのお店、昼はみそだけで、夜はとんこつだけっていうポリシー?なのかな、そういう主義だったんだ。なのでたまにしか行かず、そして夜には向わない私は、必然的にみそしか食べたことがなかったわけだけど、ある日、ふととんこつを食す機会があり、味わってみたら、なんだとんこつのほうがぜんぜんいいじゃんって衝撃的な体験があった。私が今まで食べてたみそはなんだったのってがっかりした。今でもそのことは悪夢に見るほど。嘘だけど。」
「いろいろメニューを試してみたらいいじゃないかしら。」
「足るを知る人間なの! 私は!」
「‥あっそ。いや、なんかその言い草、聞いたことあった気がするけど‥」
「そう、この言葉は土屋賢二『紅茶を注文する方法』からの引用なのです! ‥このエッセイ集のなかで土屋先生は、自分がなぜフィッシュフライ弁当しか食べないのかの理由を、諾々と説明してくださってる。私もそれを見習って、というわけではないけど、生来的に土屋先生に似た節があるのか、気に入ったものに固執する性癖があるのです。‥たとえば、高校の頃は、メロンオレが、私大好きでね、もうこの話何度もしたかと思うけど、ある一時期はメロンオレしか飲まないものだった。もうそこまで行くと学校にメロンオレを飲みに行ってるようなもので、見事、私は受験に失敗したわけだけど、でもいいやこんな話。どうでもよろし。」
「それは本当にどうでもいい話ね。まったくそうね。」
「あとは昔、ある店のチーズメンチカツが大好きで、そればかり食べていたこともあった。半年くらい。油がひどいんだけど、魔性の魅力があった。冷えてもおいしい。」
「‥本当かしら。」
「ところで、こんな話を延々としてからいうのもなんだけど、私はそれほど味覚がすぐれてもないとは自覚してる。ドトールやスタバでもiPod聞いたり、本読んだり、ひたすらぼんやりして過しているだけ。コーヒーも、いうほど、好きじゃない、かも。家ではたいてい紅茶を無感動に飲んでいる。お酒は一人では飲まない。だから家ではまず飲まない。そういう割には、さいきん、その手の機会が多い気はするけれど、みたいな。」
「どうでもいい話題を延々と連ねたエントリ、はてさてね。‥しかし、街中を歩いていると、スタバやドトールの類ってたくさんあるというか、増殖というか、そんなイメージがあるのは気のせいかしら。それと、味覚の話って文章にしづらいのよね。苦手意識があるというか、なんか信用ならないのよね、味を語る様って。もちろん偏見であるのは自覚しているけれど、しかし味について堂々と書く作家の類は、疑ってかかったほうがいいという意見はそれほど的が外れてないんじゃないかしら? さて、どうでしょう。」
『わたしは他の店でフィッシュフライを食べることはない。この店のフィッシュフライ弁当が気に入っているのだ。ここのフィッシュフライが何の魚を使っているのか不明である。魚かどうかも不明である。だが材料が分からなくても、味覚さえしっかりしていれば、おいしく食べられるものだ。同僚にも勧めているが、評判はよくない。
「下品な味だ」(下品な人間にかぎってこういう)、「ラードで揚げてあるから、しつこくて気持ち悪くなる」(しつこくて気持ち悪い人間にかぎってこういう)、「とても食べられたものではない」(とても食べられたものではない人間にかぎってこういう)などの感想を聞く。
こういった感想を聞いているうちに、最近では、性格の歪みと味覚の歪みに相関関係があるのではないかとわたしは疑うようになった。疑いを表明すると、連中は、「その通りだ」と肯定する。味覚にも性格にも知性にも問題があるとしか思えない。』
土屋賢二「紅茶を注文する方法」
土屋賢二「紅茶を注文する方法」
「生活に対し、保守的‥というのかしらね。なかなか新しい店に顔を出すのが億劫という奴かしら。」
「それはあるかも。というのも、私って基本的に同じメニューばかり頼む。ドトールに行っても、ほぼまちがいなく、ブレンドしか注文しない。そんなのつまらないでないかーっていわれるかもしれないけど、べつにいいの、私はこういう生活の細部に関しては保守的なの、一度気に入ったら何かまずいことがない限りそれで通すの、だって問題ないもん。‥この傾向は、でも、いろいろ私の生活の端々に潜んでいる。たとえば、以前住んでた家の近くにラーメン屋があったんだけど、私はそこでみそラーメンばかり食べていた。なぜかっていうと、そのお店、昼はみそだけで、夜はとんこつだけっていうポリシー?なのかな、そういう主義だったんだ。なのでたまにしか行かず、そして夜には向わない私は、必然的にみそしか食べたことがなかったわけだけど、ある日、ふととんこつを食す機会があり、味わってみたら、なんだとんこつのほうがぜんぜんいいじゃんって衝撃的な体験があった。私が今まで食べてたみそはなんだったのってがっかりした。今でもそのことは悪夢に見るほど。嘘だけど。」
「いろいろメニューを試してみたらいいじゃないかしら。」
「足るを知る人間なの! 私は!」
「‥あっそ。いや、なんかその言い草、聞いたことあった気がするけど‥」
「そう、この言葉は土屋賢二『紅茶を注文する方法』からの引用なのです! ‥このエッセイ集のなかで土屋先生は、自分がなぜフィッシュフライ弁当しか食べないのかの理由を、諾々と説明してくださってる。私もそれを見習って、というわけではないけど、生来的に土屋先生に似た節があるのか、気に入ったものに固執する性癖があるのです。‥たとえば、高校の頃は、メロンオレが、私大好きでね、もうこの話何度もしたかと思うけど、ある一時期はメロンオレしか飲まないものだった。もうそこまで行くと学校にメロンオレを飲みに行ってるようなもので、見事、私は受験に失敗したわけだけど、でもいいやこんな話。どうでもよろし。」
「それは本当にどうでもいい話ね。まったくそうね。」
「あとは昔、ある店のチーズメンチカツが大好きで、そればかり食べていたこともあった。半年くらい。油がひどいんだけど、魔性の魅力があった。冷えてもおいしい。」
「‥本当かしら。」
「ところで、こんな話を延々としてからいうのもなんだけど、私はそれほど味覚がすぐれてもないとは自覚してる。ドトールやスタバでもiPod聞いたり、本読んだり、ひたすらぼんやりして過しているだけ。コーヒーも、いうほど、好きじゃない、かも。家ではたいてい紅茶を無感動に飲んでいる。お酒は一人では飲まない。だから家ではまず飲まない。そういう割には、さいきん、その手の機会が多い気はするけれど、みたいな。」
「どうでもいい話題を延々と連ねたエントリ、はてさてね。‥しかし、街中を歩いていると、スタバやドトールの類ってたくさんあるというか、増殖というか、そんなイメージがあるのは気のせいかしら。それと、味覚の話って文章にしづらいのよね。苦手意識があるというか、なんか信用ならないのよね、味を語る様って。もちろん偏見であるのは自覚しているけれど、しかし味について堂々と書く作家の類は、疑ってかかったほうがいいという意見はそれほど的が外れてないんじゃないかしら? さて、どうでしょう。」
『わたしは他の店でフィッシュフライを食べることはない。この店のフィッシュフライ弁当が気に入っているのだ。ここのフィッシュフライが何の魚を使っているのか不明である。魚かどうかも不明である。だが材料が分からなくても、味覚さえしっかりしていれば、おいしく食べられるものだ。同僚にも勧めているが、評判はよくない。
「下品な味だ」(下品な人間にかぎってこういう)、「ラードで揚げてあるから、しつこくて気持ち悪くなる」(しつこくて気持ち悪い人間にかぎってこういう)、「とても食べられたものではない」(とても食べられたものではない人間にかぎってこういう)などの感想を聞く。
こういった感想を聞いているうちに、最近では、性格の歪みと味覚の歪みに相関関係があるのではないかとわたしは疑うようになった。疑いを表明すると、連中は、「その通りだ」と肯定する。味覚にも性格にも知性にも問題があるとしか思えない。』
土屋賢二「紅茶を注文する方法」
土屋賢二「紅茶を注文する方法」