「ミルキィホームズ」二次創作 ~エリーとバイト~
2012/01/31/Tue
「意外と、大変ですよ……?」
エリーのバイトの内容を聞いたら、どうやら立っているだけでいいらしい。そんな楽な仕事があるなら私もする!と思ってエリーに提案してみると、エリーは視線をあちこちにさまよわせてから、かぼそい声でそう私に忠告した。なんでもどんと来いよ!と私は心配そうなエリーに胸を張る。――もちろん、本音をいうと、私はお花を売るお仕事のほうがずっと好きではあるのだ。なぜって、それはきれいなお花を道行く人々に配るという行為は、とりもなおさず愛を広げるという仕業でもあるのであり、つまり私の奉仕がこの街をお花で満たすということを意味するのであって、要するに一言でいえば、私のお花畑が世界を魅了するという結果につながるのは、疑うべからざる真理であるのだから……!! ……でも残念なことに、お花を配るバイトはあまりお金にならない。もちろん……もちろんよ! 断っておくけれど……! お花を配るという行為は決して金銭に還元できない崇高な使命であることは百も承知しているのよ……! ……でもそれはそれ。手っ取り早くお金が手に入るというバイトも、これはこれで魅力的であることは、残念ながら、否定できない事実であるのだった。
「絵のモデルかー。ふふ、楽しみねっ」
しかし現場に行ってみたところ、私を見るなりいきなり先生と思しき変な人が、君はpudeur(恥じらい)とtimidité(内気さ)とhumilité(謙虚さ)に欠け……何よりobscurité(闇)が足りない!!といわれて、断られてしまった。……何をいわれたのかさっぱりわからない。これが芸術というものなのかしら……。絵や歌にはちょっとだけ自信があっただけに、なんだかへこむかも……。
でもせっかくここまで来たのだからと、私もエリーをモデルにしたデッサン会に参加させてもらうことにした。私に足りないものを学ぶためにもこれはまたとない機会と思う。
「うーん……けっこう大変そうね、エリー」
エリーのいったとおり、たしかに絵のモデルというのはいうほど簡単な仕事ではなかったようだ。同じ姿勢を保ったまま何十分も動かないでいるなんて、シャロにもネロにも到底できないことだろう。その証拠に、あのエリーでさえ、ポーズをとってから見る見る顔が高潮していく。汗もかいているようだし、息も荒そうだ。なんて神経を使う仕事なのだろうか。私は驚きに目を見張っていた。
「これが私に足りないものなのかしら……」
周りの人たちがせっせとエリーを模写する音が聞こえてくる。私も思い出したようにエリーの姿を紙の上に写す作業を始めた。エリーを見て、手を動かし、エリーを見て、手を動かし……ということを繰り返していくと、余計な考えが消え、次第に集中していく。こんな風にエリーをじっくり見る機会なんて今までなかったように思った。
(エリーって、きれいね……。いつも側にいたのに、どうして気づかなかったんだろう……)
何気なく頭に浮かんだその考え。――しかし、ある程度エリーの姿を紙に描き写してから、私の脳裏によぎったその考えは、とたんに私の手の動きを止めてしまった。それからただエリーの姿をじっと見つめる。
(エリーって、本当に……きれい)
……無意識に私のなかに生まれるその思い。しかしあらためて自分のその感情を自覚したとき、私は唐突に恥ずかしくなってしまった。するとエリーの姿を写した自分の絵までがすごく恥ずかしい、私の思いの証拠のような気がして、私は慌ててその紙を半分に折って、カバンのなかに隠した。だれにも見られないように、エリーにだけは絶対に見つけられないようにと、そんなことを混乱した頭のなかで考えて。……顔がなんだか火照っている感じがした。今までこんなことなかったのに。エリーを見ると、胸の鼓動が早まるような、むずがゆいような、そんな変な気持ちがした。
「……コーデリアさんも、私の絵を描いてくれたんですか?」
帰り道。エリーがそんなことを聞いてきた。私は反射的にどきっとしたけれど、動揺を感づかれないようになんとか体裁を取り繕い、こんなことをいう。
「う、うん……。で、でも、上手くできなかったから途中でやめちゃった」
「そうですか……。けど、よかったかもしれないです。やっぱり、絵に描かれるの恥ずかしいから……」
そういってエリーは安堵のため息をつく。――私は彼女の一挙一動に目を奪われながらも、決意を固めて、次の言葉を口にした。
「……エ、エリーの絵、やっぱり中途半端はよくないから……続きを、描かせてくれないかしら。エリーさえよかったら、その……私とエリーの二人きりで……」
「コーデリア、さん……」
「その、えっと……その……」
「――わかりました。中途半端は、いけないですから……」
私の震える声。臆病な告白。――でも、エリーは静かに微笑んで、私の申し出を受けてくれた。……胸が早鐘を打つ。彼女の微笑が熱く私の目に焼きつく。――もう私はエリーの顔をまともに見られなかった。だって、彼女の存在が、私の心をこれ以上ないほどに惑わすのだから。
エリーのバイトの内容を聞いたら、どうやら立っているだけでいいらしい。そんな楽な仕事があるなら私もする!と思ってエリーに提案してみると、エリーは視線をあちこちにさまよわせてから、かぼそい声でそう私に忠告した。なんでもどんと来いよ!と私は心配そうなエリーに胸を張る。――もちろん、本音をいうと、私はお花を売るお仕事のほうがずっと好きではあるのだ。なぜって、それはきれいなお花を道行く人々に配るという行為は、とりもなおさず愛を広げるという仕業でもあるのであり、つまり私の奉仕がこの街をお花で満たすということを意味するのであって、要するに一言でいえば、私のお花畑が世界を魅了するという結果につながるのは、疑うべからざる真理であるのだから……!! ……でも残念なことに、お花を配るバイトはあまりお金にならない。もちろん……もちろんよ! 断っておくけれど……! お花を配るという行為は決して金銭に還元できない崇高な使命であることは百も承知しているのよ……! ……でもそれはそれ。手っ取り早くお金が手に入るというバイトも、これはこれで魅力的であることは、残念ながら、否定できない事実であるのだった。
「絵のモデルかー。ふふ、楽しみねっ」
しかし現場に行ってみたところ、私を見るなりいきなり先生と思しき変な人が、君はpudeur(恥じらい)とtimidité(内気さ)とhumilité(謙虚さ)に欠け……何よりobscurité(闇)が足りない!!といわれて、断られてしまった。……何をいわれたのかさっぱりわからない。これが芸術というものなのかしら……。絵や歌にはちょっとだけ自信があっただけに、なんだかへこむかも……。
でもせっかくここまで来たのだからと、私もエリーをモデルにしたデッサン会に参加させてもらうことにした。私に足りないものを学ぶためにもこれはまたとない機会と思う。
「うーん……けっこう大変そうね、エリー」
エリーのいったとおり、たしかに絵のモデルというのはいうほど簡単な仕事ではなかったようだ。同じ姿勢を保ったまま何十分も動かないでいるなんて、シャロにもネロにも到底できないことだろう。その証拠に、あのエリーでさえ、ポーズをとってから見る見る顔が高潮していく。汗もかいているようだし、息も荒そうだ。なんて神経を使う仕事なのだろうか。私は驚きに目を見張っていた。
「これが私に足りないものなのかしら……」
周りの人たちがせっせとエリーを模写する音が聞こえてくる。私も思い出したようにエリーの姿を紙の上に写す作業を始めた。エリーを見て、手を動かし、エリーを見て、手を動かし……ということを繰り返していくと、余計な考えが消え、次第に集中していく。こんな風にエリーをじっくり見る機会なんて今までなかったように思った。
(エリーって、きれいね……。いつも側にいたのに、どうして気づかなかったんだろう……)
何気なく頭に浮かんだその考え。――しかし、ある程度エリーの姿を紙に描き写してから、私の脳裏によぎったその考えは、とたんに私の手の動きを止めてしまった。それからただエリーの姿をじっと見つめる。
(エリーって、本当に……きれい)
……無意識に私のなかに生まれるその思い。しかしあらためて自分のその感情を自覚したとき、私は唐突に恥ずかしくなってしまった。するとエリーの姿を写した自分の絵までがすごく恥ずかしい、私の思いの証拠のような気がして、私は慌ててその紙を半分に折って、カバンのなかに隠した。だれにも見られないように、エリーにだけは絶対に見つけられないようにと、そんなことを混乱した頭のなかで考えて。……顔がなんだか火照っている感じがした。今までこんなことなかったのに。エリーを見ると、胸の鼓動が早まるような、むずがゆいような、そんな変な気持ちがした。
「……コーデリアさんも、私の絵を描いてくれたんですか?」
帰り道。エリーがそんなことを聞いてきた。私は反射的にどきっとしたけれど、動揺を感づかれないようになんとか体裁を取り繕い、こんなことをいう。
「う、うん……。で、でも、上手くできなかったから途中でやめちゃった」
「そうですか……。けど、よかったかもしれないです。やっぱり、絵に描かれるの恥ずかしいから……」
そういってエリーは安堵のため息をつく。――私は彼女の一挙一動に目を奪われながらも、決意を固めて、次の言葉を口にした。
「……エ、エリーの絵、やっぱり中途半端はよくないから……続きを、描かせてくれないかしら。エリーさえよかったら、その……私とエリーの二人きりで……」
「コーデリア、さん……」
「その、えっと……その……」
「――わかりました。中途半端は、いけないですから……」
私の震える声。臆病な告白。――でも、エリーは静かに微笑んで、私の申し出を受けてくれた。……胸が早鐘を打つ。彼女の微笑が熱く私の目に焼きつく。――もう私はエリーの顔をまともに見られなかった。だって、彼女の存在が、私の心をこれ以上ないほどに惑わすのだから。