「ミルキィホームズ」二次創作 ~シャロとお花見~
2012/03/29/Thu
「コーデリアさん、早く早くっ」
「ちょ、ちょっと……! そんなに急かさないでよ、シャロったら!」
よく晴れた春の午後のこと。私はシャロに手を引かれて、学院から少し離れた高台へと続く道を進んでいた。午前中に洗濯や掃除といった部屋の雑務を済ませた私は、エリーのいる部屋で午後を過ごすのが耐えられず、こっそりと逃げるように昼食のあと、外へ抜け出した。そうした行為をする自分自身にどうしようもない嫌な気持ちが湧いて、何やっているんだろうと中庭のベンチに座って、はあとため息をついたとき、どこからともなく現れたシャロが私の背中をどーん!と押して、コーデリアさん暇ですか暇ですよね見るからにもう暇そうですさすがです!!と、けんかを売っているのか挑発しているのか判断に困る怒涛の言葉を浴びせてから、私の手をとったのだ。――本当はシャロと二人きりになるも嫌で、このところなんとなくシャロを避けていた私だったのだけど、シャロはそんな私の心中を知ってか知らずか、大きな声で元気よく、私にこういったのだ。きれいなお花を見に行きましょう、って。
――どこへ連れて行ってくれるのだろう、シャロは。……春の朗らかな日差しが燦々と照る石畳の坂を上りながら、なぜか高鳴る胸の鼓動を感じて、私はシャロの背中を見つめた。すると、不意に振り返ったシャロは、私にこんな無体なことを聞いてくる。
「さいきんネロがコーデリアにセクハラされたからエリーもシャロも気をつけろよーっていってくるんですが、コーデリアさん何かネロにしたんですか?」
「……そんなこといってるの、ネロ。もう、大げさな。ただスカートめくろうとしただけなのに」
「なんでそんなことしたんですか?」
「な、なんでって……。――うーん、あ、ほら、ネロってなんだかいじめたくならない?」
「へー」
「それにたまにスカートめくれたほうが楽しくない?」
「さすがコーデリアさんはだめな人ですね!」
これぞ天真爛漫といった笑顔で私にそんなことをいうシャロの振舞いに、ちょっとざわざわした悪寒を覚えながらも、シャロの目指していた、私に見せたかったというお花に、私たちはたどり着いた。――それは満開の桜の花だった。高台の上にある小さな公園。でもそんな小さな場所に不似合いなほど大きな桜の木が、風に枝を揺らし、ほとばしるほどの鮮烈な朱色の花々を身にまとっていた。
「すごい……」
「えへへ……どうですか、コーデリアさん!!」
シャロが得意満面といった面持ちで私に聞いてくる。その桜の光景に圧倒された私はただ頷くことしかできなかった。
「……でも、どうしてシャロは私にこの桜を見せたかったの?」
「それは……、それはコーデリアさん、さいきん元気ないようでしたから」
シャロの言葉に私は内心どきっとする。――そうだった。この子は周りのことを意外によく見ているんだったと、私は心のなかで思った。
「だから何かコーデリアさんを元気づけられるものはないかって考えたんです! コーデリアさんお花好きだから、何かすごいお花はないかって小衣ちゃんに聞いたんです。そしたら毎年、G4の皆さんがお花見する秘密のスポットがあるって教えてもらって……」
「そ、そう、明智さんが教えてくれたの……」
予期せぬ明智さんという名前に不覚にもまごついてしまった。そんな私の様子を目ざとく察したシャロが突然、私の胸に飛び込んでくる。
「コーデリアさん、もしかしてやきもち焼いてくれてるんですかー?」
「な、何をいうの、そ、そんな、ば、ばば、ばかなこと、あ、あるわけないでしょう……」
あたふたと弁解する私。でもにこにこしたシャロは私に抱きついて一向に離れようとしない。それでますます赤面する私だったけれど、すぐ近くに感じるシャロの体温は温かくて、いつしか私の気持ちまで柔らかく包み込んでしまっていた。――ひとひらの桜の花びらが風に舞い、私の手元まで届く。シャロと並んで晴れやかに咲く桜を眺めながら、私は心がやさしい思いで満たされるのを感じていた。それはあたかもシャロがくれた秘密の魔法だというかのように。
「ちょ、ちょっと……! そんなに急かさないでよ、シャロったら!」
よく晴れた春の午後のこと。私はシャロに手を引かれて、学院から少し離れた高台へと続く道を進んでいた。午前中に洗濯や掃除といった部屋の雑務を済ませた私は、エリーのいる部屋で午後を過ごすのが耐えられず、こっそりと逃げるように昼食のあと、外へ抜け出した。そうした行為をする自分自身にどうしようもない嫌な気持ちが湧いて、何やっているんだろうと中庭のベンチに座って、はあとため息をついたとき、どこからともなく現れたシャロが私の背中をどーん!と押して、コーデリアさん暇ですか暇ですよね見るからにもう暇そうですさすがです!!と、けんかを売っているのか挑発しているのか判断に困る怒涛の言葉を浴びせてから、私の手をとったのだ。――本当はシャロと二人きりになるも嫌で、このところなんとなくシャロを避けていた私だったのだけど、シャロはそんな私の心中を知ってか知らずか、大きな声で元気よく、私にこういったのだ。きれいなお花を見に行きましょう、って。
――どこへ連れて行ってくれるのだろう、シャロは。……春の朗らかな日差しが燦々と照る石畳の坂を上りながら、なぜか高鳴る胸の鼓動を感じて、私はシャロの背中を見つめた。すると、不意に振り返ったシャロは、私にこんな無体なことを聞いてくる。
「さいきんネロがコーデリアにセクハラされたからエリーもシャロも気をつけろよーっていってくるんですが、コーデリアさん何かネロにしたんですか?」
「……そんなこといってるの、ネロ。もう、大げさな。ただスカートめくろうとしただけなのに」
「なんでそんなことしたんですか?」
「な、なんでって……。――うーん、あ、ほら、ネロってなんだかいじめたくならない?」
「へー」
「それにたまにスカートめくれたほうが楽しくない?」
「さすがコーデリアさんはだめな人ですね!」
これぞ天真爛漫といった笑顔で私にそんなことをいうシャロの振舞いに、ちょっとざわざわした悪寒を覚えながらも、シャロの目指していた、私に見せたかったというお花に、私たちはたどり着いた。――それは満開の桜の花だった。高台の上にある小さな公園。でもそんな小さな場所に不似合いなほど大きな桜の木が、風に枝を揺らし、ほとばしるほどの鮮烈な朱色の花々を身にまとっていた。
「すごい……」
「えへへ……どうですか、コーデリアさん!!」
シャロが得意満面といった面持ちで私に聞いてくる。その桜の光景に圧倒された私はただ頷くことしかできなかった。
「……でも、どうしてシャロは私にこの桜を見せたかったの?」
「それは……、それはコーデリアさん、さいきん元気ないようでしたから」
シャロの言葉に私は内心どきっとする。――そうだった。この子は周りのことを意外によく見ているんだったと、私は心のなかで思った。
「だから何かコーデリアさんを元気づけられるものはないかって考えたんです! コーデリアさんお花好きだから、何かすごいお花はないかって小衣ちゃんに聞いたんです。そしたら毎年、G4の皆さんがお花見する秘密のスポットがあるって教えてもらって……」
「そ、そう、明智さんが教えてくれたの……」
予期せぬ明智さんという名前に不覚にもまごついてしまった。そんな私の様子を目ざとく察したシャロが突然、私の胸に飛び込んでくる。
「コーデリアさん、もしかしてやきもち焼いてくれてるんですかー?」
「な、何をいうの、そ、そんな、ば、ばば、ばかなこと、あ、あるわけないでしょう……」
あたふたと弁解する私。でもにこにこしたシャロは私に抱きついて一向に離れようとしない。それでますます赤面する私だったけれど、すぐ近くに感じるシャロの体温は温かくて、いつしか私の気持ちまで柔らかく包み込んでしまっていた。――ひとひらの桜の花びらが風に舞い、私の手元まで届く。シャロと並んで晴れやかに咲く桜を眺めながら、私は心がやさしい思いで満たされるのを感じていた。それはあたかもシャロがくれた秘密の魔法だというかのように。