「ミルキィホームズ」二次創作 ~小衣ちゃんとデート~
2012/04/30/Mon
「コ、コーデリアお姉ちゃん……? ――って、小衣がそんなこというと思ったかー!!」
曇り空が怪しい午後のこと。人々が足繁く行き交う広場の真ん中で、私はいつものようにお花を配るバイトに精を出していた。能う限りの愛想を振りまくとびきりの笑顔とオペラの発声のコツを駆使した聴衆を魅了する魅惑の声音でかわいいお花の販売に勤しんでいた私だったけど、私のそんな努力に反し、今日もいつものように売れ行きは芳しくない。どうしたものかしら、このままじゃ今日の夕飯もパンの耳だけかしら……と思案に暮れたとき、道の彼方にG4の明智さんの姿が見えた。
(あ、明智さんだ……。でも私、正直なところ、明智さんって苦手なのよね。あんまり話したことないし、というか警察の人たちってなんか怖いし、というかというか私ってけっこう警察の人に捕まってるし、シャロくらいよね、私たちのなかで気さくに警察の人に声かけられるのって……)
と、お花はいかがですかーと声を出しながら、私はそんなことを思った。たぶん明智さんもすぐ通り過ぎるはずだから、べつに声かけないでおこうと、そう私は考えていた。……でも、あに図らんや、遠くの明智さんがじっとこっちを見ている……気がする。そしてあろうことかこちらにずんずんと近づいてくる……気がする。――まさかそんなわけないよね、だって私、明智さんとほとんどしゃべったことないし……と、思っていたら、目の前にちょこんと背が低い明智さんが、例の目つきの悪い視線で私のことを見上げていた。
「わあ、シャロより背が低いんだ」
「いきなりなに失礼なこといってんのよ!! ……あんた、だめだめミルキィホームズのだめだめな一人でしょ? こんなとこで何やってんのよ」
「え、バイト、です」
「ちゃんと許可とってんの?」
「きょか?」
「……はあ、まあべつにいいけど」
「そういう明智さんは何をされているんですか? あ、かわいいお花はいかがですか。無愛想な明智さんに可憐なお花が加われば最強に見えるかも、なんて」
「私は今日は早く仕事が終わって、明日もオフだから、とっとと家に帰るのもなんだかなーって。あ、花はべつにいらない。心からいらない」
今の洒落ですか?と聞こうと思ったけれど、ぷいと明智さんは顔を背けてしまった。休みだというなら、なんでそんなつまらなさそうな顔をしているんだろう? はてなと思ってしばらく考えると、すぐ答えに行き当たった。
「わかった! 明智さん友だちいないんですねっ。そういえばG4の人たちからも信用されてないみたいだし!」
じろっと明智さんににらまれる。そして今にも口が開きそこからたまらない悪口が飛び出しそうだったけれど、でもそんなのお構いなく、私は明智さんの手をとっていた。
「それじゃ明智さん、私とデートしませんか」
「は? あんた何いってんの?」
「いいからいいから、短いオトメ時間、無駄にしてるヒマないんですからっ」
戸惑う明智さん。でも私はぐいぐいと彼女の身体を引っ張っていく。私たちは街へ繰り出していった。――まずアイスを食べて(明智さんのおごり)、かわいいお店を見て回って、ほら明智さんこの小物かわいい、お揃いにしましょう!とかいって、明智さんに買ってもらって(明智さんのおごり)、カラオケに行って普段のストレスを発散して(明智さんのおごり)、ウィンドウショッピングを楽しみながら、あ、この服、明智さんに似合いそう、ちょっと見ていきませんか、よかったら私も明智さんとおそろいなのがいいなとかいって私の分まで買ってもらって(明智さんのおごり)、それからスーパーに行って、今度、明智さんに料理つくってあげましょうか?とかなんとかいって一週間分以上の食料を買い込んで(明智さんのおごり)、明智さんと私は思う存分、そんなふうにして、楽しんだのだ。
――最初はなんだかんだ文句ばかりいっていたけれど、途中から、明智さんも調子が出てきた。私は明智さんとの仲もずいぶん縮んだかもと思って、こんなことをいってみる。
「明智さん、私のこと、お姉さんって呼んでいいですよっ」
「コ、コーデリアお姉ちゃん……? ――って、小衣がそんなこというと思ったかー!!」
「えー。そう呼んでくれていいのに。……でも明智さんはすごいですね」
「そ、そう……? ま、まあ、小衣がすごいのなんて当たり前なんだけど」
「シャロより小さいのにしっかり働いていて、私なんてバイトも上手くいかないのに……」
「いやあんたらはまず探偵の勉強をしっかりしなさいよ。――で、でも、今日は……」
「明智さん?」
「今日は、楽しかったわ。私、あまり友だちとこうして過ごすことなかったから。まあ天才だから周囲と溶け込めないのも無理ないんだけど。天才だから」
「それじゃ、明智さん、また一緒にこうして遊びませんか。機会があれば、いつでも」
「ほ、ほんと? ――そう。そうね。そう頼まれちゃ、しかたないし……」
そして、そんな楽しい時間が過ぎるのはあっという間。もうあたりは真っ暗で、明智さんもそろそろ帰らないとと呟いた。
「今日はもう遅いから、ここでお別れですね。……またね、明智さん」
「ええ。それじゃ、また、コーデリア」
そういって、くるっと背を向けて、明智さんは去っていく。私も一息ついて、帰りの道を行く。そんな春の夜。しんと涼しい空気を感じながら、そういえば明智さんにコーデリアって名前で呼んでもらったのはこれが初めてねと、私は気づいた。そんなことがなんだか私にはうれしかった。コーデリア、と、凛とした明智さんの声を私は何度も思い浮かべ、自然と笑みがこぼれるのだった。
曇り空が怪しい午後のこと。人々が足繁く行き交う広場の真ん中で、私はいつものようにお花を配るバイトに精を出していた。能う限りの愛想を振りまくとびきりの笑顔とオペラの発声のコツを駆使した聴衆を魅了する魅惑の声音でかわいいお花の販売に勤しんでいた私だったけど、私のそんな努力に反し、今日もいつものように売れ行きは芳しくない。どうしたものかしら、このままじゃ今日の夕飯もパンの耳だけかしら……と思案に暮れたとき、道の彼方にG4の明智さんの姿が見えた。
(あ、明智さんだ……。でも私、正直なところ、明智さんって苦手なのよね。あんまり話したことないし、というか警察の人たちってなんか怖いし、というかというか私ってけっこう警察の人に捕まってるし、シャロくらいよね、私たちのなかで気さくに警察の人に声かけられるのって……)
と、お花はいかがですかーと声を出しながら、私はそんなことを思った。たぶん明智さんもすぐ通り過ぎるはずだから、べつに声かけないでおこうと、そう私は考えていた。……でも、あに図らんや、遠くの明智さんがじっとこっちを見ている……気がする。そしてあろうことかこちらにずんずんと近づいてくる……気がする。――まさかそんなわけないよね、だって私、明智さんとほとんどしゃべったことないし……と、思っていたら、目の前にちょこんと背が低い明智さんが、例の目つきの悪い視線で私のことを見上げていた。
「わあ、シャロより背が低いんだ」
「いきなりなに失礼なこといってんのよ!! ……あんた、だめだめミルキィホームズのだめだめな一人でしょ? こんなとこで何やってんのよ」
「え、バイト、です」
「ちゃんと許可とってんの?」
「きょか?」
「……はあ、まあべつにいいけど」
「そういう明智さんは何をされているんですか? あ、かわいいお花はいかがですか。無愛想な明智さんに可憐なお花が加われば最強に見えるかも、なんて」
「私は今日は早く仕事が終わって、明日もオフだから、とっとと家に帰るのもなんだかなーって。あ、花はべつにいらない。心からいらない」
今の洒落ですか?と聞こうと思ったけれど、ぷいと明智さんは顔を背けてしまった。休みだというなら、なんでそんなつまらなさそうな顔をしているんだろう? はてなと思ってしばらく考えると、すぐ答えに行き当たった。
「わかった! 明智さん友だちいないんですねっ。そういえばG4の人たちからも信用されてないみたいだし!」
じろっと明智さんににらまれる。そして今にも口が開きそこからたまらない悪口が飛び出しそうだったけれど、でもそんなのお構いなく、私は明智さんの手をとっていた。
「それじゃ明智さん、私とデートしませんか」
「は? あんた何いってんの?」
「いいからいいから、短いオトメ時間、無駄にしてるヒマないんですからっ」
戸惑う明智さん。でも私はぐいぐいと彼女の身体を引っ張っていく。私たちは街へ繰り出していった。――まずアイスを食べて(明智さんのおごり)、かわいいお店を見て回って、ほら明智さんこの小物かわいい、お揃いにしましょう!とかいって、明智さんに買ってもらって(明智さんのおごり)、カラオケに行って普段のストレスを発散して(明智さんのおごり)、ウィンドウショッピングを楽しみながら、あ、この服、明智さんに似合いそう、ちょっと見ていきませんか、よかったら私も明智さんとおそろいなのがいいなとかいって私の分まで買ってもらって(明智さんのおごり)、それからスーパーに行って、今度、明智さんに料理つくってあげましょうか?とかなんとかいって一週間分以上の食料を買い込んで(明智さんのおごり)、明智さんと私は思う存分、そんなふうにして、楽しんだのだ。
――最初はなんだかんだ文句ばかりいっていたけれど、途中から、明智さんも調子が出てきた。私は明智さんとの仲もずいぶん縮んだかもと思って、こんなことをいってみる。
「明智さん、私のこと、お姉さんって呼んでいいですよっ」
「コ、コーデリアお姉ちゃん……? ――って、小衣がそんなこというと思ったかー!!」
「えー。そう呼んでくれていいのに。……でも明智さんはすごいですね」
「そ、そう……? ま、まあ、小衣がすごいのなんて当たり前なんだけど」
「シャロより小さいのにしっかり働いていて、私なんてバイトも上手くいかないのに……」
「いやあんたらはまず探偵の勉強をしっかりしなさいよ。――で、でも、今日は……」
「明智さん?」
「今日は、楽しかったわ。私、あまり友だちとこうして過ごすことなかったから。まあ天才だから周囲と溶け込めないのも無理ないんだけど。天才だから」
「それじゃ、明智さん、また一緒にこうして遊びませんか。機会があれば、いつでも」
「ほ、ほんと? ――そう。そうね。そう頼まれちゃ、しかたないし……」
そして、そんな楽しい時間が過ぎるのはあっという間。もうあたりは真っ暗で、明智さんもそろそろ帰らないとと呟いた。
「今日はもう遅いから、ここでお別れですね。……またね、明智さん」
「ええ。それじゃ、また、コーデリア」
そういって、くるっと背を向けて、明智さんは去っていく。私も一息ついて、帰りの道を行く。そんな春の夜。しんと涼しい空気を感じながら、そういえば明智さんにコーデリアって名前で呼んでもらったのはこれが初めてねと、私は気づいた。そんなことがなんだか私にはうれしかった。コーデリア、と、凛とした明智さんの声を私は何度も思い浮かべ、自然と笑みがこぼれるのだった。