J'ai perdu jusqu'au souvenir de l'amour.
2012/05/08/Tue
好きなタイプはと聞かれたら、明るくてジョークの上手い人と答える。そのとき私の頭に浮かぶのは決まってあの子。過去のあの人、思い出の人。たぶんその記憶は美化されている。だってあの子はいつも私のことをからかっていたから。単純で気弱で周囲の雰囲気に流されやすい私のことを、おもしろがっていじっていたあの子の笑顔を、私はどこか苦手に思っていた。嫌いというわけじゃない。ただ、あの子の屈託のない振舞いと、そしていつも楽しそうに毎日を送っているあの笑顔を前にすると、私はなんだか居たたまれなくなって、弱い自分が気になって、嫌になって、だから私は、あの子に無意識のあこがれを抱きつつも、やっぱり、苦手に思っていた。
でもそれがどうしてだろう。嫌な過去。嫌な出来事。嫌な言葉。嫌な目線。高校のときのこと。文化祭の出し物。なぜか私のクラスは演劇をやることになって、私は嫌だった。きっと私は失敗するから。国語や英語の時間、教科書を音読することさえ気が滅入ってしかたがない私なのに、どうして劇なんてやれるだろう。もちろんこんな私に大役が任されるはずもない。出番はほんのちょっと。端役もいいところ。でも、それでも嫌だった。そんな私の予感はやっぱり的中して、簡単な短い台詞を何度もまちがえる。舌をかむ。何度もやり直す。そのたびにみんなが私を見る。またやり直し、やり直し、やり直し……。上手くいくまでやり直し、やり直し、やり直し……。あの目線、あの空気、私の鼓動、私の息、私のおびえ、私の不安、申し訳なさと気まずさで、逃げ出したい。でも逃げることも叶わず、私は目線を下げる。下げる、下げる……。でも、逃げられない。
でもそれがどうしてだろう。そんな嫌な過去の思い出。今でも思い出すことのできる、あの嫌な感覚。でも、それがなぜか……。――あの日の帰り道。もう夜遅い。私はあの子とばったり出会った。中学生のあの子。ジョークが上手くて、頭の回転が速くて、人気者で、私とは正反対のあの子に、ただ数年前に私の家の隣に引っ越してきて、それであいさつして、ちょっとだけ遊ぶようになったあの子に、私は偶然、出会った。制服姿。どうして。もうとっくに学校は終わっているはず。
「待っていたんだよ」
私を? どうして。
「だって、今日は誕生日……」
誰の? ……私の。すっかり忘れていた。でも、いいよ。今日はもう疲れたし、祝ってくれる友だちもいないし、夜も遅いし、もう。
「そんなのだめだよ」
嫌がる私。しつこいあの子。――弱い私は結局、あの子の誘いを断りきれない。……今でも思い出す。あの日の誕生日。たった一度の、高校二年生の誕生日。あの子と過ごした夜を。
どうしてだろう。あんなに嫌なことがあった一日なのに、あの子と過ごした短い夜のひと時が、あの日をすべて、輝かす。
今ではあの子と遠く離れ、私は在りし日のことを夜更けにぼんやり思い出す。あの子の笑顔を思い出す。あの子があの夜、私に伝えた好きという言葉の、意味を取り戻したいというかのように。
でもそれがどうしてだろう。嫌な過去。嫌な出来事。嫌な言葉。嫌な目線。高校のときのこと。文化祭の出し物。なぜか私のクラスは演劇をやることになって、私は嫌だった。きっと私は失敗するから。国語や英語の時間、教科書を音読することさえ気が滅入ってしかたがない私なのに、どうして劇なんてやれるだろう。もちろんこんな私に大役が任されるはずもない。出番はほんのちょっと。端役もいいところ。でも、それでも嫌だった。そんな私の予感はやっぱり的中して、簡単な短い台詞を何度もまちがえる。舌をかむ。何度もやり直す。そのたびにみんなが私を見る。またやり直し、やり直し、やり直し……。上手くいくまでやり直し、やり直し、やり直し……。あの目線、あの空気、私の鼓動、私の息、私のおびえ、私の不安、申し訳なさと気まずさで、逃げ出したい。でも逃げることも叶わず、私は目線を下げる。下げる、下げる……。でも、逃げられない。
でもそれがどうしてだろう。そんな嫌な過去の思い出。今でも思い出すことのできる、あの嫌な感覚。でも、それがなぜか……。――あの日の帰り道。もう夜遅い。私はあの子とばったり出会った。中学生のあの子。ジョークが上手くて、頭の回転が速くて、人気者で、私とは正反対のあの子に、ただ数年前に私の家の隣に引っ越してきて、それであいさつして、ちょっとだけ遊ぶようになったあの子に、私は偶然、出会った。制服姿。どうして。もうとっくに学校は終わっているはず。
「待っていたんだよ」
私を? どうして。
「だって、今日は誕生日……」
誰の? ……私の。すっかり忘れていた。でも、いいよ。今日はもう疲れたし、祝ってくれる友だちもいないし、夜も遅いし、もう。
「そんなのだめだよ」
嫌がる私。しつこいあの子。――弱い私は結局、あの子の誘いを断りきれない。……今でも思い出す。あの日の誕生日。たった一度の、高校二年生の誕生日。あの子と過ごした夜を。
どうしてだろう。あんなに嫌なことがあった一日なのに、あの子と過ごした短い夜のひと時が、あの日をすべて、輝かす。
今ではあの子と遠く離れ、私は在りし日のことを夜更けにぼんやり思い出す。あの子の笑顔を思い出す。あの子があの夜、私に伝えた好きという言葉の、意味を取り戻したいというかのように。